ペンとマスカラ

映画のメモと、思考の断片。

マタニティブルーズ

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成長とは、喪失の絶え間ない連続である。

10ヶ月の時間を経て私の体から失われたもの、目の前にある生命は腹の中から出てきた。しばしば陥るとされる産後のメランコリーは、新生児の育児がうまくいかないからなんだろうと思っていた。

腹の中の生命が、自分とは別の肺を使って呼吸をはじめたとき、私は気づいた。10ヶ月間感じ続けたあたたかな鼓動は、胎動は、もはや私の体からは失われてしまったんだと。

長い時間をかけて変容したはずの身体は驚くほどの早さで復元し、傷として残された生命の痕跡まで失われつつある。

そのかわり、目の前には新たな生命が、新たな存在として横たわっている。

私たちはふたつに分かたれた。

その事実が胸を騒がせる。言祝ぐべきことが、喪失の重みに押しつぶされそうになる。私たちはもう戻れない。

悲しいわけではない。ただ、ただ、その事実が涙となる。誰でもない、あの生命が外にあり、いま息をしているというただそれだけのことが。